集会「宝島社裁判が問うもの」

 1月30日(月)大阪市立中央会館ホールで「宝島社差別本『ミナミの貧困女子』絶版を求める裁判控訴審に向けた学習会とエンパワメント集会」が行われました。

 はじめに司会から、これまでの経緯についての解説、および第二訴訟も本日、たった3回の期日で結審してしまったことが報告されました。
 到着が少し遅れて、仲岡しゅん弁護士によるパワーポイントも使った説明が行われました。
 ・「大阪ミナミの貧困女子」とは
 ・内容それ自体の問題点
 ・出版経緯の問題点
 ・一審判決は「請求棄却」その理由は?

 ・そもそも著者が「村上薫」である必要性は?
という点について、分かりやすくお話をされました。

 仲岡弁護士は原告のことも良く知っており、本の内容や経緯についても充分原告の主張を支持するとしたうえで、しかし法廷では冷静に見なければならない部分があるそうです。本の内容が間違っているということは誰でも言えますが、司法の枠組みではどうか?中身が正しいか間違っているかということと、合法であるか違法であるかは違うということです。
 2003年の大晦日に行われた。ボブサップと曙のK1対決を例に上げ、曙はボブサップに負けたけれど、相撲の土俵で、相撲のルールで勝負すれば勝ったでしょう。
 司法のルールにあげて、司法のルールの中で勝負しなければならないわけです。

 本の内容について、本書は「貧困問題」を問いたいのか疑問に感じる記述にあふれている(様々な事例が列挙されました)こと、「新地で働く女性は『勝ち組』」など、夜職に序列をつけていること、「女性ライター」が書いたことは偽りであること(裁判の中で女性ライターではなく、誰も知らない謎の女性がリライトしたことが出てきた)などの問題点が指摘されました。

 出版プロセスの問題では、企画が持ち上がったのが2020年10月ごろ、出版が2021年2月10日で、12月31日に原稿を1次締切、その後1月26日に半日以内で修正しろ、と全体像を把握できないまま出版されている、出版過程はあまりにも拙速であると批判されました。

 一審判決「請求棄却」の理由について、この裁判は著者が出版に合意していないため、出版差し止めと、編集者から1000万円の損害賠償請求の脅迫があったことから、こちらも損害賠償1000万円の請求をしていることが述べられた後、「著作者人格侵害」「名誉棄損」で争っていることが説明されました。
 出版差し止めについて、出版の同意があったか?ということは一審で「私も終了です」という村上さんのラインでの返答をもとに、合意があったと判断されているわけですが、この「私は終了です」にはいろいろ解釈の余地があるのです。
 編集者から要求されいる「修正はこれ以上ない」ということで、最終稿は確認されておりません。また最終稿を確認せず出版されることについて、異議を述べなかったと判決にありますが、これは強制わいせつなどの性犯罪において「なぜ被害者は抵抗しなかったのか?」ということと似ています。
 編集者による「1000万円の損害賠償請求」について、可能性の指摘、あくまで「お願い」イメージだということです。どうも裁判所で「脅迫」とは、のど元に包丁を突き付けて行うようなものといった、立証のハードルが高いものとなっているようです。
 著作者人権侵害・名誉棄損が成り立つか?という点について、一般読者が普通の読み方をすれば、執筆者が分担していることは分かるので村上さんが全部書いたものではないということは分かるだろうということでしたが、筆頭著者とされているのだから、たとえ15ページしかなくても読者は村上さんがこの本の内容に同意していると読むでしょう。ちょうど仲岡弁護士が「正論」「Will」「Hanada]のような右翼雑誌の表紙にバーンと載せられれば、世間では仲岡弁護士がそういった人物であると判断する、いやでしょう!ということです。

 一旦出版に同意して、後から同意していないとクレームをつけているという論もあるようですが、出版までの期間が短い中でそれは不自然です。村上さんがそんなことをしても、なんの利益もありません。
 また裁判の手続き上も問題があって、たいていの事件では審問をするにもかかわらず、それを却下して説明もしない…強引な訴訟指揮については大阪地裁に対し苦情申し立ても行っています。


 そもそも筆頭著者が「村上薫」である必然性がるのか?について、出版に対して異議申し立てをしている村上さんの原稿は二百数十ページのうちの15ページ、そこを外して出版することも可能だったでしょう。村上さんの原稿がなければ、ただのおっさんが書いた本…宝島社は「夜職当事者の女性」が書いた本という、当事者性を利用したかったのではということでした。

 仲岡弁護士の講演の後、サックス奏者のSwing MASAさん、社民党副党首の大椿ゆうこさんからのあいさつがありました。Swing MASAさんは村上さんの勇気ある訴えや行動にエンパワメントされている、自分もハラスメントに対して闘っていることを訴えられました。大椿さんは労働問題の観点から、出版に関して契約書はあるのか?と聞かれました。村上さんは、出版企画時には契約書はなく、出版後もめた後になって宝島社は契約書をつくろうとした、自分は出版を認めていないので契約はしていない(従って印税等も当然、受け取っていない)と述べられました。

 その後、会場内によびかけて集会カンパを集めた後、質疑応答を受けました。
 最後に村上さんから決意表明そして貰った後、会場で音楽演奏で盛り上がりました。様々な抵抗の場で歌われ、演奏されてきた「不屈の民」です。

宝島社『大阪ミナミの貧困女子』差別出版裁判

絶版と謝罪を求める